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こいわずらい

現実と空想の狭間に視える景色

HAPPY PARTY TRAINから視えた景色2 -東と西-

HAPPY PARTY TRAIN Aqours

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前回の記事(HAPPY PARTY TRAINから視えた景色 -電車と旅立ち-)に引き続き、Aqours3rdシングル『HAPPY PARTY TRAIN』(以下HPT)について個人的に感じた景色について記していきたいと思う。

今回は、沼津という閉じられたコミュニティの内側の物語だったはずのラブライブサンシャインに突如現れた、完全に外側に分類される存在の違和感と、その解答についてのお話。

ラブライブサンシャインというプロジェクトを語るうえで欠かせないのが、やはり聖地と呼ばれる、劇中でモデルになった場所の存在である。地元である現実の沼津での盛り上がりが、アニメ1期終了後の現在までコンスタントに継続しているのは、この要素に起因するところが大きい。地元とファン、相互の関係性こそが作品の根底にあると考えている人間も少なくないだろう。

HPTのPVに新たな聖地を期待した人はもちろん多いだろう。

実際にPV中ではたくさんの聖地が提示された。三島駅出発の伊豆箱根鉄道9番線ホーム。ドールハウスKIMURA様。さらには韮山駅伊豆長岡駅にポツンと存在する、何の変哲のない踏切まで一夜にして聖地と化した。こんな機会がなければ絶対に人も集まらなかった場所が注目されるというのは、まさに聖地という文化の功績に違いない。

しかし、サンシャインと聖地という切っても切り離せない関係性のなかで、大きな違和感を覚える風景が生み出された。

それはダンスシーンに映し出される背景だ。

ドラマシーンは風景が映るたびに瞬時に地元に詳しい人間によって特定がなされていった。しかし、ダンスシーンの背景についてだけはタイムラグが生じていたように思う。

特徴的に湾曲した建物。どこか廃墟を思わせる雰囲気。線路とSL。特徴的な材料は揃っているにも関わらず、沼津・伊豆界隈では聖地と認定できる場所がなかった。

それはなぜなのか。答えは単純。ダンスシーンの背景の元ネタとなったのは沼津が一切関係ない場所だったから。

場所は豊後森機関庫。なんと大分県だ。

ここで、当然の疑問が浮かぶ。

なぜ聖地として大分県豊後森を選択したのか?

サンシャインにおいて、物語の延長線上として描かれた東京や名古屋を除いて、関係のない地が聖地となることはなかった。そして先述したように、サンシャインは聖地という文化を効果的に使って発展してきた。突拍子もない場所を聖地にするということには当然リスクがある。これまでに完成された人の流れを壊す可能性もあるし、そもそも流れそのものが生まれない可能性もある。

そこで考えるヒントとなるのが、HPTがそもそも”旅”をテーマにした作品だということだ。

Aqoursにおいて旅といえば、誰もが思い出すのがアニメ劇中での東京への旅だろう。この旅は間違いなく、彼女たちに新たな景色を与えた。旅をテーマとするなら、そしてNEXT STEPを歌うなら、偉大なる先人たちへと近づく一歩、つまり"東”へと旅に出るというのが自然な物語だと思える。

しかし、Aqoursは”東”へと向かわなかった。自分たちの新たな舞台を象徴する場所として大分、つまり東とは真逆の”西”を選んだ。

これは明確な意思表示に違いない。μ'sの背中を追うのではなく、むしろ敢えて背中を向けるような、不敵で偉大なる挑戦への旅路なのだと。まさにアニメ劇中で千歌が語った「追いかけちゃだけなんだよ。輝くって自由に走ることなんだよ」を、今度は言葉ではなく行動で示しているのだ。

つまり、Aqoursがμ'sとは全く別の物語であるという主張だ。

しかし一方で、この沼津・東京・大分という3地点の位置関係は同時に、上記で語った意味合いとは全く逆の意味をも含んでいると私は考える。いきなり自己の主張を曲げるようで心苦しいが少しこじつけに付き合っていただきたい。

μ'sの始まりの地”東京”から見て、Aqoursの始まりの地”沼津”は南西方向にある。そして沼津から見て、Aqoursの旅路の先である"大分”はやはり南西方向に位置している。輝きが南西方向へと波及していると捉えると、やはりAqoursはμ'sが追い求めた物語の延長線上にいるのだ。

”西”という方向が輝きの向かう場所のメタファなのではないか、という理由はもう一つある。μ’sAqoursはそれぞれアニメ劇中で国府津海岸から夕焼けを見て、自らの進む方向の決意表明をしている。夕日が落ちていく方向はまさに”西”だ。彼女たちが前に進むとき、その身体は西を向いている。

ところで、ダンスシーンの舞台となった豊後森機関庫は転車台の展示でも有名だ。転車台とは端的に言えば、真っ直ぐにしか走れない蒸気機関車の走る方向を変えるための装置である。NEXT STEPが発表されて、これまでとは違う方向へと走り出したAqoursの舞台装置としてはピッタリだし、たどり着いた先でまた方向を変え違う景色を目指す彼女たちをどこか期待してしまう。

結びに、豊後森機関庫には国鉄9600形蒸気機関車29612号機というSLが展示されているのだが、彼のたどった運命が少しおもしろい。というのも、彼は当初解体予定の車両だった。しかし、豊後森に移転され展示された結果、まさにこの場所のシンボルとなり、いわばアイドルと呼べる存在になった。

本来なくなるはずだった存在が人を集めてセンセーションを起こす。

……奇妙なシンパシーのせいでまた旅が恋しくなってしまう。